電子加速器は高周波技術の集大成
2022.04.18
1.はじめに
株式会社多摩川電子が長年培ってきた高周波技術および光伝送技術が、大型放射光施設の直線加速器の高周波回路に応用されています。電子加速器は、電子や陽電子を光速に近い速度まで加速することで高エネルギーの状態となります。電子や陽電子が磁場で曲げられるとき、その進行方向に放射される電磁波を放射光と言います。 この放射光は輝度が高く指向性にも優れているため、高品質のX線を発生させることができ、国内の企業・研究所は解析装置として、材料素材やタンパク質の分子構造、その他生体化学などの実験・研究開発に利用しています。
2.加速器と高周波技術
高周波加速器の基本的な原理は下記の通りとなります。キャビティフィルタ(注1)のような構造をした加速管と呼ばれる空洞に、電子ビームを通すと同時に非常に高い電力の高周波信号(Sバンド・Cバンド)を印加し、あたかも電子が(波乗り)のように加速していきます。大型加速器ではこのような加速管がブロック単位で数十台連結して使用され、最終的には~8GeV(ギガ・エレクトロンボルト)といった高エネルギーとなります。
注1:キャビティフィルタ=空洞型フィルタ
3.無線機とは比較にならない高周波精度
電子を目的のエネルギーまで加速するためには、非常に高い精度による高周波技術が求められます。LLRF(注2)といわれる高周波ブロックはそれぞれの加速管ごとに設けられ、高度なタイミング制御にて正確にコントロールされています。
注2:LLRF=Low Level RF
放射光設備LLRFの代表的な主要性能
- RF出力信号純度
- :-145dBc/Hz at1MHz
- RF出力信号リニアリティ
- :0.2%以下
- DAC位相安定度
- :0.01度以下
- DAC振幅安定度
- :0.01%以下
- MASTER CLOCK JITTER
- :400fs以下
- MASTER CLOCK 位相雑音
- :-130dBc/Hz at1kHz
- O/E CONVERTER温度位相安定度
- :0.1度以下
- O/E CONVERTER JITTER(10MHz)
- :100fs以下
- BPM用フィルタ(BPF)群遅延ch間偏差
- :1nsec以下
最新のLLRFは外部LOCAL信号と基準CLOCKを除き、全てディジタル信号処理にて位相(Φ)レベル(ATT)のコントロールを行っています。
4.最後に
粒子線加速器の歴史は古く、現代に至るまで高周波技術・コンピュータ技術の革新と共に性能が向上し、高エネルギー物理学の分野から、現在では既に医療機器・産業用素材開発において一般的な応用分野となっています。 一方加速器は、最先端科学である素粒子研究の分野では欠かせない装置であることから、今後も研究所・大学を中心として更なる性能向上を目指して開発が続くことでしょう。
多摩川電子では無線・計測機器開発で長年培った高周波技術や光伝送技術を基軸に、今後も加速器等を中心とした高エネルギー研究の分野を通じ、我が国における科学技術の発展に貢献いたします。
(参考HP)出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E9%80%9F%E5%99%A8